かみさま的日常風景。 聖夜のまつり。

 ある日、幽王が金華宮を訪ねると、いつも騒がしい宮城が、いつも以上に騒がしかった。
 もともと金箔や丹をふんだんに用いた豪華絢爛な作りだというのに、さらに何かきらめく房を束ねた物や赤や緑の玉などが至る所に飾り付けられていた。
 幽王は、彩王のいつもの気まぐれかと半ばあきれつつ歩を進めた。
 彩王の居室付近はさらに騒がしい。多くの采女達が、彩王に慣れない命令を下されたらしく、様々な飾りを手に、右往左往していた。
 何をしているかと中を覗き込めば、彩王の趣味からするといささか意外な、黒々とした北国の針葉樹を飾り付けているようだった。
「モミの木、でしょうか、これは? いったい?」
「幽王様、申し訳ありません。私たちにもよくわからないのですが。彩王様は今ちょうど席を外されております……」
 かろうじてそれだけ答えた采女も、彩り鮮やかな飾りを手にして行ってしまった。
「一体、彩王は何をしようというのでしょう?」
 せわしなく行き交う采女の邪魔にならないよう、幽王は部屋の隅の壁にもたれて、彩王をぼんやりと待った。
 よく見れば、窓にも正体のわからない白い粉で何か図柄が描かれている。星はともかくとして、鹿にしては毛むくじゃらな生き物、ソリとかいう下界の乗り物、小太り気味のひげの人間はいったいどのような意味であろうか。
 あれは何を意味するのかと頭をひねる幽王は、ふと気配を感じて視線を下に向けた。いつの間にか彩王が隣に立っていた。その手には、彩王の顔と同じくらいの大きさの、金に輝く五芒星が収まっている。
「金の五芒星……? 一体どんなまじないを始めるのです?」
 その問いに彩王はぱっと、笑顔を幽王に向けた。
「まじないではない! クリスマスじゃ!」
「栗澄まし……? 一体何のことですか」
「幽王、お主クリスマスを知らんのか。下界の祭りじゃ!」
 幽王はぼんやりと下界のことを思い返した。町を彩るイルミネーション、子や大切な相手へ贈るプレゼントを選ぶ人々の笑顔。窓の絵はプレゼントを配るサンタクロースだったのだ。
「ああ、そんなものもありましたね……。しかし、あれは西洋の神を祀るものでは?」
「キリストは神ではないぞ! 神の子じゃ!」
「どっちでもいいですよ……しかし、異教の祭りをするつもりなのですか?」
 彩王はにかっと笑った。
「我らの受け持つ下界では、クリスマスに宗教的意味はほとんどない。ならば、特にこだわらず皆でお祭りを楽しめばよいのじゃ!」
 そう言って、金の星を頭上に掲げる。
「その星はどうしたんですか」
「綺蘭に作ってもらった! ほかの飾りもおおむね綺乱作じゃ」
 綺蘭は金を司る白閃金帝である。金属加工ならお手の物だろう。
 彩王は部屋を見回して、満足げにうなずいた。
「飾り付けはおおむね仕上がったかのう。あとは、この星をクリスマスツリーのてっぺんに飾り付ければ完成じゃ!」
 そういうと、采女たちが持ってきたはしごにひょいと登り、ツリーの一番高いところに星をつけた。
「次はごちそうじゃ。厨番の者たちに準備はよいかと聞いてきてくれ。あと、幽王もせっかく来たのだから、一緒に食事していくとよい!」
 言うが早いか、大きな机が運ばれてくる。彩王がはしごから降りてくる頃には、すっかりクリスマスディナーのセッティングが終わっていた。ここの采女たちは優秀だ。
「お誘いいただきましたし、ご相伴にあずかりましょうか……ところで彩王、クリスマスと言えば良い子のところにはサンタクロースがプレゼントを持ってくると言いますが、貴女のところには来てくれますかね」
 席に着きつつ、幽王がそう問えば、彩王は少しむっとした顔をした。
「幽王、お主わかっていて言っておるじゃろう。妾は見た目こそ女の童じゃが、お主と等しい存在ぞ。サンタが来るどころか、今宵、妾は天界のサンタになろうぞ!」
「は?」
「そんなことより、今はごちそうじゃ! 下界のレシピを再現してもらったのじゃ! 冷めぬうちに食べるのじゃ!」
 そう言って彩王はうきうきとターキーにかぶりついた。おとなしく幽王はそれに倣うことにした。

 翌朝、幽王は若干の頭痛に眉をしかめつつ目を覚ました。ワインとかいう、飲み慣れない下界の酒のせいだと思われる。
「慣れないことはするものでは、ありませんね……節度、限度は大事です……何ですかこれは」
 寝台から起き上がるとき、見慣れない箱が枕元から滑り落ちた。
『眠れない貴方の味方! ホットアイマスク』と書かれている。
「これは……『サンタ』からのプレゼントでしょうか。私のこの顔は寝不足ではなく、元々なんですがね……」
 そう言いつつも早速マスクを装着してみる。一筋の光もない暗さとほどよい頭の締め付け感が、意外にも心地よい。
「これは……案外よい贈り物かもしれませんね」
 幽王はそのまま寝台に横になり、彩王へのお礼を考えながら、珍しく二度寝をすることにした。